マンション管理費滞納|売買したらどうなるか
今、ドラマ化されるなどして、何かと話題のマンガ「正直不動産」※
祟りから、嘘がつけなくなったというか、本音が噴き出すのをとめられなくなった不動産営業マンの主人公が、業界の玄人的な諸々について、客に正直に明かしてしまうという話です。
私も、マンションを売るときに、このマンガを読んでいれば、もう少し高く売れたのではと、少々悔やまれます。あぁ、専属専任媒介・・・
さて、この中で、多額のマンション管理費等を滞納している売主が、決済時に滞納金を振り込む契約となっていながら、別の不動産屋に入れ知恵されて、ちゃっかり振り込まなかったため、買主に多額の債務(売主の滞納金)が降りかかってしまうという話があります。
主人公は、買主に対し、「理不尽でしょうが、支払わなければならないのは、あなたです!」ときっぱり宣告します。
話としては、その多額の債務さえも主人公の才知により、不動産屋らしい落としどころ(このお話の見せどころかと)を見つけて、なんとか落ち着くのですが、読んでいて、所有権移転とともに、売主の滞納額が完全に買主に移転すると誤解されないといいなと思いました。
もちろん、マンガには、よく読めばそうは書いてありませんが、話の流れ的に誤解しやすそうだなと。
所有権の移転とともに、買主は、売主の管理費等の債務を引き継ぎますが、買主(特定承継人)が引き継ぐといっても、売主(区分所有者)の債務が消滅するわけではありません。
※引用 出版社:小学館 正直不動産 第9巻 第65直~第66直 「管理費等滞納マンション」作画:大谷アキラ 原案:夏原武 脚本:水野光博
マンション管理費滞納|売主と買主の関係
コンメンタール区分所有法では、次のように解説しています。
債務者たる区分所有者の債務と特定承継人の債務との関係は、不真正連帯の関係(他の点では連帯債務と同じであるが、債務者相互間の負担部分がないもの)と法務省担当者は解しているが、特定承継人は、債権者の請求に対して*催告の抗弁権(民法452条類推)および*検索の抗弁権(民法453条類推)を有する保証人の立場にあると考える余地がある。
基本的にこの立場に立つ裁判例として東京高判平17.3.30があり、同判決は管理費等を滞納した区分所有者の特定承継人の責任は二次的、補完的なものに過ぎず、区分所有者がこれを全部負担すべきものであり、特定承継人には負担部分はないから、特定承継人は代位弁済した管理費全額を上記区分所有者に求償することができるとした。
出典:コンメンタール区分所有法 第3版 P66~67
- *催告の抗弁権…債務の履行を請求しようとする債権者に対して、保証人が「まず主たる債務者に対して先に催告するべきである」旨を請求できる権利
- *検索の抗弁権…保証人が債権者から請求を受けたとき、「主たる債務者に弁済資力があり、かつ執行が容易であること」を証明することで、主たる債務者に対して執行するよう請求できる権利
※上記の立場に立たない裁判例もあるかもしれません。
マンション管理費滞納は留意!
さて、不動産業界からすると、マンガのような考え方が一般的・実際的なのかもしれず、また、管理組合としては、長年なんらかの策を講じていたであろうにもかかわらず、旧所有者から回収できずに困っていた多額の未収金が、やっと売買を機に回収できると期待していますから、もしマンガのようなことがあった場合、新所有者にコンタクトをとりたくなるのが人情というものでしょう。
そうなると、買主さんは本当に大変ですが、私としては、買主さんには、多額であれば、「あきらめないで」といいたい。
まずは、弁護士さんに相談してみてはいかがでしょうか。
管理費などの滞納については、重要事項ですので、必ず不動産屋さんから説明があるものと思います。その場合は、売買価格から差し引いてもらうなどするほうがいいのかもしれません。ただ、滞納があるからこの値段にしているのだとかうまくわされないように注意して。
なお、特定承継に関する法律の条文として区分所有法第54条が引用されていますが、これは、管理組合法人の債務に関する引継ぎの話ですので、このマンガの話であれば、同第8条の方が相応しいと思われます。